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アカデミックレポート

2011年05月10日

コットンCSRサミット2011 レポート(前篇)


2011年5月10日、コットンCSRサミット2011がおこなわれました。このサミットは、コットンの生産地が抱える貧困や児童労働、農薬の被害などの課題を解決するために、世界のコットンを取り扱う企業やNGOが経験の共有をおこなうというもの。当日はアパレル業界で働く人たちや学生など100人近くの方が参加しました。

green bird コラボレーション企画

生産者、企業、消費者の共感を繋ぐ、プレオーガニックコットンの取り組み

この日のプログラムは、3つのトークセッションで構成。最初のトークセッションでは「人と地球にやさしいコットンを目指して」をテーマに、我らがプレオーガニックコットン(POC)プログラムの試みについて、伊藤忠商事株式会社中村延靖、株式会社クルック江良慶介が、リー・ジャパン株式会社の細川秀和さんと共に語りました。

POCプログラムは4年目に突入。最初は躊躇する農家が多かったこの取り組みも、健康被害や経済的な負担が軽減することが周辺の生産者に広まったことで参加する農家が増え、昨年サポートしたインドのコットン農家は856軒、コットンの総量は5000トンになりました。ありがたいことに、現在は4000軒以上の農家が参加待ちの状況です。

こうして多くの生産者からの理解を得て、活動を広げてきたPOCプログラム。しかし、目を向けなくてはいけないのは、もちろん生産者の側だけでありません。
「取り組みをスタートした農家の方々は、必ず3年間サポートをしなくてはいけないんです。それに、参加したいと言ってくれるコットンの生産者がたくさんいても、POCが売れる範囲内でしかサポートすることができません」(中村)。この取り組みを維持し、より大きくしていくためには、企業、そして消費者からも理解と共感の輪を広げていくことが重要なのです。

そのためPOCプログラムでは、音楽フェスティバルのap bank fesでブースを設けて来場者の方々に取り組みを紹介したり、ミュージシャンのツアーグッズに使用したりと、kurkkuならではのアプローチで消費者にPOCの認知を広める試みをおこなっています。
「素材にこだわる消費者の方々は確実に増えていると思いますが、まだまだごく一部です。そこで、多くの人にPOCを知ってもらうことが、kurkkuの役割のひとつだと思っています。そして、"プレオーガニック"という素材としての売りだけで埋められない部分をどう埋めていくのか。それは、商品自体の魅力を高めることだと思います」(江良)。

オーガニックコットンへの移行を支える活動に共感し、POCを使ったジーンズを販売しているリー・ジャパンの細川さんも「東日本大震災の影響で、着実に消費者のマインドも動いている時期だと思います。“今は日本を支えるべきで、インドのことを考えている場合じゃない”というムードになりかねない。だからこそ、メーカーが積極的にPOCを使うことで、消費者に届ける必要があると思います。かわいいと思って購入したらPOCだった、と後で知るような商品作りをしていかなくてはいけない」と、企業の立場から語ってくれました。

POCプログラムには、商品を一目見ただけでは分からないストーリーがあります。それぞれが役割を担い、想いのある人同士を繋ぎながらストーリーを伝えていく。この取り組みは、こうしてたくさんの人たちの共感によって育まれ、着実に活動を広げています。

消費者がドナーとなり、インドの農家を支援する仕組み

セッション1の2組目では、「オーガニックコットンの生産支援とその仕組み」について、株式会社フェリシモの葛西龍也さん、豊島株式会社の溝口量久さん、株式会社コントロールユニオンジャパンの山口真奈美さんが登壇しました。

繊維専門商社として、日本で一番多くコットンを取り扱っている豊島では、オーガビッツという取り組みをおこなっています。この活動は、世界有数の優良農地から厳選したオーガニックコットンを使って、さまざまなメーカーと共に商品開発をするというもの。配合率をメーカーに委ねることでファッション性にこだわったアイテムを作ることができ、メーカーと消費者が気軽に環境活動に参加できるプロジェクトです。豊島の溝口さんが語る「繊維商社として、取引先にCSRとして使ってもらえるような仕組みづくりをしたい」という言葉の通り、現在36ブランドがオーガビッツに参加しています。

そのなかでも「いかにCSRを本業の中に取り込むか」をテーマに、PEACE BY PEACEという一歩先をゆくプロジェクトを展開しているのがフェリシモです。このプロジェクトは、インド製のオーガニックコットンを使った衣料品を基金付きで販売し、集まった基金はインドのオーガニックコットン栽培の支援や、子どもの就学支援に充てられる仕組みになっています。
「オーガニックコットンも、農薬を使ったコットンも、同じ土、同じ種から出来た場合、製品の品質に明らかに差が出るわけではないんです。なので、責任ある消費が続いていかない限り、作り手が生産を続けていくことができない。このプロジェクトのドナーはフェリシモではなく、買ってくれた一人ひとり、つまり消費行動が生産活動に直結するんです。もちろん良い物を作るために、全てのプロセスで皆が手を繋ぎ切磋琢磨して、より価値の高いものに仕上がっていく仕組みを目指しています」(葛西さん)。

こうした取り組みを支えているのが、現地での事業形成をサポートするJICAや、オーガニックの認証審査をおこなっているコントロールユニオンです。コントロールユニオンの山口さんは、「私たちが普段使うものを作る地域の現状や、そこで生活する人の暮らしなどは分かりづらいものです。そこで、原料の調達から最終製品に至るまで、どういった環境負荷や社会的な問題が潜んでいるのかということを知る必要があります。環境、社会、経済のバランスを取りながら、企業がオーガニックのコットン製品を作り、消費者が使うことによって、持続可能な社会に繋がると思っています」と、消費者が正しく物を選べる基準作りの重要性を伝えてくれました。

さらに、このプロジェクトは慈善目的だけではなく、大地への恩返しという意味も併せ持っているのです。
「コットンは大地からの恵をいただかないと作れません。この大地が100年先もコットンを生み出してくれるように、みんなで手を取り合っていく。問題点を改善しながら、そんな未来に繋がる仕組みを残してあげられるようにしたいと思っています」(葛西さん)。

生産者が自立して正当な経済活動に乗るためのお手伝いや、子どもたちが適切な教育を受けられる環境作りをするなど、彼らが将来の選択肢を得られるようにすること。そして、それは巡り巡って、私たちの未来にも繋がっていくのです。こうした想いを胸に、PEACE BY PEACEプロジェクトはさまざまな団体からのサポートを受けて動き出しました。プロジェクトスタートからの3年間で集まった基金は、目標を大きく超えて1500万円を突破。これからも更にたくさんの笑顔を紡いでいくことでしょう。

企業とNPOの強みを活かしあい、よりよい社会を創る

続いてセッション2では「製品CSR価値を高めるNGOとの新しい協働」をテーマに、CSOネットワークの黒田かをりさんをモデレーターに迎えて、特定非営利活動法人 ハンガー・フリー・ワールドの渡邉清孝さん、特定非営利活動法人 ACE 白木朋子さん、成田由香子さん、リー・ジャパン株式会社 細川秀和さんがトークを展開しました。

今回のサミットを主催する3組(ハンガー・フリー・ワールド、ACE、リー・ジャパン)が協働でおこなっている取り組みが、ウガンダで採れたオーガニックコットンで作られた製品の売上の2%をウガンダの井戸建設に役立てる「Uganda Organic Cotton」プロジェクトです。ジーンズは作る工程でたくさんの水を使い、環境に負荷をかけてしまいます。その一方で、きちんとした水の設備がないウガンダの地域では、3000~4000人がひとつの井戸を使っている現状があります。当然、このような状況では水が足りないので汚い水を使ってしまい、赤痢やポリオ、腸チフスなどの病気が蔓延してしまう原因ともなっているのです。2007年から、この「Uganda Organic Cotton」プロジェクトがスタートし、いままでに6基の井戸を建設、そのうちの70%で病気が減少しました。

このプロジェクト発足のきっかけは、ハンガー・フリー・ワールドに細川さんが「ウガンダ支援のため、寄付をしたい」というメールを送ったこと。ハンガー・フリー・ワールドは飢餓のない世界を作るために、バングラディシュやウガンダで、栄養改善や教育支援などの活動をおこなっている団体です。このメールを受けた渡邉さんは「大手企業からの願ってもない依頼だけれども、児童労働の課題があるコットン産業の提案をすんなり受けていいものか」と思い悩んだのだそう。綿花栽培は子どもの労働率が高く、インドではコットン種子生産地域で40万人以上の子どもが働いている現実があるのです。
「寄付を受けるからには、児童労働の温床になっていないか監査したい。けれど、それを企業側に提案したら、もしかしたら面倒だからと断られるかもしれない。その間で葛藤しましたが、やはりノーチェックで寄付を受けるわけにはいかないという思いが強く、思い切って細川さんに打診したんです」(渡邉さん)。

その打診への細川さんの回答は、思いがけないものでした。「デニムに適したウガンダ製のオーガニックコットンを使うことに決めたのですが、GOTS(オーガニックテキスタイルの世界基準)の認証はもちろん取れていたので、児童労働の問題までは意識していなかったんです。だから、渡邉さんからその指摘を頂いて、矛盾点があることに気が付きました。この問題は避けるべきではなく、掘り下げていくべきだと思ったんです」(細川さん)。

そこで、さっそく児童労働の撤廃と予防するための仕組みづくりに注力しているACEに現地レビューを依頼し、リー・ジャパン、ジーンズに使う糸や生地をつくるサプライヤーと共に現地へ足を運びました。
「オーガニックであっても、必ずしも労働問題がないというところまで保障ができる状況ではないのが現実です。今回は、自分たちの目で生産現場を確かめて、どのようなリスクがあり得るのか見てみよう、という最初のケースでした。労働や人権の問題をなくすことは、企業の満足感を高めます。また、現地レビューの結果を外に向けて、コミュニケーションを活発にしていくことも、これから必要になってくると思います」(白木さん)。

向かった先は、ウガンダの北部にある、数年前まで内戦が起きていたグル県とリラ県。ここは、昨年まで難民キャンプで暮らし、生計手段を失っていた人たちがオーガニックコットンの栽培を始めた場所です。小規模で整備されていない畑での労働環境は、長靴や軍手、マスクのような作業するのに必要なプロテクションが何もなく、トイレなどの設備の衛生管理も不十分。今回は、明らかな児童労働は見受けられませんでしたが、今後も継続して監視する仕組み作りが必要という結論に至りました。

「CSRだけでなく現地のニーズを把握して、児童労働から子どもたちを救う活動に参加してもらいたいですね。今後も、このような取り組みを関連企業と共におこなっていきたいと思います」(成田さん)。

「経済活動を動かす企業がビジネスとしてサポートしていくことは、NPOではできないことです。企業にとってリスクであることと、NPOにとって解決すべきことは重なっています。企業とNPOが互いの強みを活かしあい、有機的な連携を繋げれば、よりよい社会になるのではないかと思います」(白木さん)。

「企業は物を作って売るというプロセスしか見ないので、気づかないことが多いんです。でも、NPOと企業が連携すると、まったく違う見方ができる。それを気づかせてもらうことは、モノづくりのアイデアにも繋がることを感じました。格好良いプロモーションができる企業の良さを活かして、双方が歩み寄ればできることがもっとあると思います」(細川さん)。

今回の現地レビュー結果は、リー・ジャパンのウェブサイトなどで報告していく予定だそう。企業や団体には、それぞれの立場ゆえの異なる考え方があります。けれど、その先に目指す場所が同じであれば、手を組むことで大きな力を生み出せるのです。今回の協働プロジェクトは、そんな可能性を私たちに示してくれました。